【タイの法律 労働問題】警告書にサインをしない不良社員への対応の仕方

就業規則、違反、警告書、ワーニングレター、

 
いくらオフィスや工場の構造を良くして見晴らしを良くしても、社内に監視カメラを付けても、就業中の居眠りやスマホの私用を完全に防止することは出来ないものです。特にタイでは難しい…。

 

ここでは、タイに工場を置く日系企業 T社 の例を見ながら「法解説と弁護士の見解」と「タイ労働省労働者保護福祉局が公開している就業規則作成の指針」をご紹介します。

 


このタイにある工場には、工場内の機械設備を保守メンテナンスするタイ人の要員がおり、日中に工場内の現場で機械設備の保守や修理を行っています。

 

ある日、タイ人作業員Aは、密集した機械の間に入って、機械の修理をしていました。難しい修理のようで、作業が開始してから2時間以上たっても終わらず、相当大変な修理なのだと、周囲の一般作業員はさぞ作業が大変なんだなあと、気の毒そうに時々覗いていました。


さすがに、3時間くらい経過した時に、一般作業員Bが、何も作業の音がしないことに不信を思って、並んだ機械の奥まで入って覗いてみると、何とそのタイ人作業員は居眠りをしているのです。気配を感じたのか、居眠りしていた作業員は、パッと飛び起きましたが、その時に頭を機械にすごい勢いで思いっ切りぶつけてしまいました。


発見した一般作業員Bは、すぐにその上司と総務の担当者を呼んできて、総務担当者はケガの様子を確認しましたが、幸いにも大きな怪我はなく胸をなど降ろしました。

 

しかし、「居眠りをしていた」との一般作業員からの報告を聞いたので、直ちに本人から事情聴取をしましたが、「一切寝ていない」と否定の一点張り。一般従業員Bは、「間違いなく寝ていた」と真っ向から食い違いがおきました。また、他の一般従業員Cからは、「確かに寝ていたし、その前はスマホをずっと見ていた」ともう1人の「証人」が登場。


そこまで証人が居たのでは間違いがないと確信して、とうとうワーニングレター(警告書)を発行しましたが、当の本人は断固否定して、尚かつワーニングレターに必要な本人のサインもしません。押し問答を繰り返した末にとうとう物別れに終わりました。

このままでは、真相は分からないまま未決着となってしないます。しかし、普段のこの保守作業員の勤務態度を考え、かつ証言した2名の一般作業員の様子から判断すると、限りなく「黒」に近いと思われる。しかし、防犯カメラの証拠やその他の確たる証拠がない以上、強くワーニングレターにサインを求めることが出来なそうだ。

 

しかし、このまま会社側が「泣き寝入り」することも悔しい…。いったいどうしたら良いか、一度、弁護士に相談してみようということになったが、きっと解決(サインを得ること)は難しい気がする…。

総務の担当者は、「2人の一般作業員が実際に見た事実があるにも関わらず、本人はワーニングレターにサインをしなかった」と、そのワーニングレターに手書きでこの事実を書きこんでおくことぐらいしか今は出来ないのだろうか。途方に暮れている。

 

日系企業 T社       

 

 

《タイの労働法解説・弁護士の見解》

さて、この様な事態になった場合、企業側はどうすればいいか? について解説します。

 

まず、結論から申し上げると、この場合、証言者もいることから、サインが貰えないからと会社が泣き寝入りをする必要はありません。この企業が発行したワーニングレター(警告書)は有効でしょう。

 

また、問題の従業員がワーニングレター(警告書)にサインをしなかったからと、そのまま保管して置くことはできません。従業員が就業規則の違反を認めずサインをしなかった場合は、社内の「掲示板」等(他の従業員すべてが目にする場所)に「ワーニングレター(警告書)」を15日間に渡り貼り出す必要があります。(15日間張り出した証拠は、日付入りの写真等で証拠を残すこと)この手順でワーニングレター(警告書)は有効になります。

 

但し、「就業規則」等に規約と違反した際の罰則が警告事由として詳細が明記してある方が好ましいでしょう。また、就業規則等に、警告事由として「就業中に私用でスマートフォン操作をした場合」や「居眠りをした場合」という規定がなくても、「従業員として適正を欠く行為に及んだ場合」などの一般条項に該当するとして処分することはありえます。

 

また、ワーニングレター(警告書)を発行する前や、その前提として、処分以前に何度か注意を行い、本人の弁明を聞くという適正な手続を経ることが不可欠です。また、居眠りや私的なスマートフォン操作は、過失行為ですから等の軽い処分にせざるを得ないでしょう。

 

 

《タイ労働省労働者保護福祉局が公開している就業規則作成の指針》 

タイ労働省労働者保護福祉局が 公開している就業規則作成の指針どのような服務規律が例示されているのかご紹介します。

 

1. 労働者は就業規則の規定を順守すること。

2. 労働者は上司の合法的な命令に従うこと。

3. 労働者は決められた労働時間を守り、決められた方法で労働時間を記録すること。

4. 労働者は誠実に義務を果たし、使用者や他の労働者を迫害したり、意図的に被害を与えないこと。

5. 労働者は勤勉に、最善の努力をして義務を果たすこと。

6. 労働者は職場の安全ルールに従うこと。

7. 労働者は職場の器具備品を整理整頓・維持保全すること。

8. 労働者は職場や工場敷地内の財産が人災やその他災害によって紛失・損傷しないよう出来る限り 協力すること。

9. 労働者はお互いに協力し、職場や工場敷地内の衛生や秩序を保持すること。

10. 労働者は職場や工場敷地内で他人と喧嘩したり、他人を傷つけないこと。

11. 労働者は職場や工場敷地内に違法薬物、武器、爆発物を持ち込まないこと。

 

この服務規律に続いて懲戒処分が例示されています。この服務規律に違反した労働者には、為された違反に則し、口頭による警告、書面による警告、停職もしくは 解雇の懲戒処分が検討される。 服務規律の一番目に「就業規則の規定順守」が掲げられています。