【タイの法律】裁判でかかった弁護士費用を相手に求めることはできるか

 

裁判を起こさなければならない状況になってしまった。しかし、裁判までせざるを得なくなったのは相手のせいなのだから、「弁護士費用も相手に請求して、全部支払わせたい」という気持ちは、ごくごく自然な感情でしょう。「かかった弁護士費用は相手に請求できますか?」このような質問をよく受けることがあります。

 

 

そこで、裁判に勝訴した場合は当然、「弁護士費用や裁判費用は、相手に請求できるもの」だと、なぜか、そのように思われておられる相談者や依頼者の方があまりにも多いのですが、確かに、費用の問題は弁護士に相談・事件の依頼を考えている方にとってはとても気になることですよね。ここで、日本とタイの制度を合わせて解説しましょう。

 


日本の制度から見てみよう

日本の制度は、どうなっているのか?これまで、日本でも、弁護士費用を敗訴者が負担するという制度を導入しようと検討されたことはありますが、現在の日本の制度でも、例外を除いては、原則としてご自身で依頼した弁護士の費用は自分で支払うことが原則で、裁判に勝ったからと、相手に弁護士費用を請求できるわけではないし、裁判に負けても相手方の弁護士の費用まで負担しなければならないということは一切ありません。

 

相手の弁護士費用までは負担しなくてもよいという原則の例外は、下記の不法行為による損害賠償を請求する場合 (契約関係の無い当事者において一方的に違法なこと)

 

  • 暴力や傷害(刑事)事件における民事的な賠償請求
  • 交通事故
  • 公害(健康被害)
  • セクハラを受けたことによる損害賠償請求
  • 名誉毀損による慰謝料請求

 

不貞行為によって相手に慰謝料を求める不法行為に基づく損害賠償請求を裁判で行う場合や労働災害で安全配慮義務違反を主張する場合では、弁護士費用を請求できるケースがありますが、不法行為による損害賠償を請求する場合は、裁判の判決で相場では、例え請求可能なケースにおいても、弁護士費用として請求できるのは、請求額(賠償額)の10%になり、弁護士に支払う総費用を請求できるという事ではないので注意してください。

 

また、契約関係にある相手方が、約束に反して、お金を貸したのに返さないというような債務不履行による損害賠償については、勝訴しても弁護士費用は請求できません。

 

 

では、タイの制度の原則はどうなっているのか?

弁護士を依頼した場合の費用は、裁判の勝ち負けに関係なく、日本と同様に、原則自己負担となります。裁判を起こすときには、弁護士に着手金と成功報酬(両者をあわせて弁護士費用といいます)を支払わなければなりません。判決結果が勝っても負けても基本原則は各自の負担となり、勝訴した側が敗訴した側へ請求できるわけではありません。

 

ですが、タイにも例外は存在します。しかし、最初から弁護士が作成する訴状に、原告側の弁護士費用を支払えという相手への訴えはできません。タイでは、日本の基本原則の例外と同様に、裁判で最終判決がでる際に裁判官より、敗訴した者へ「○○バーツの弁護士費用をはらいなさい」と判決文に記載されるときがあります。その請求できる裁判費用額は、裁判所に委ねられており、適正な範囲で算出されます。

 

 

裁判に敗訴した者が弁護士費用を負担することが妥当かどうか

裁判に敗訴したものが、相手の弁護士費用を支払う制度は、良さそうに見えますが、裁判は、当然、相手があったり両者の証拠や裁判所の判断などがあることから、たとえ自分の主張が真実でも、証拠が不十分であったりした場合、心ならずも100% 必ず勝てるという保証はありません。

 

 

裁判を起こして勝ったときは良いとしても負けたときには、自分の弁護士費用だけでなく相手の弁護士費用まで支払わされることになってしまいます。そうすると裁判を起こすときに、特に、一般個人の相手が大手企業や政府などで大きな訴訟額を求める場合、万が一負けて、相手方の莫大な弁護士費用までを負担することを考えるようなことになれば、どんなに自分自身が正当で被害を被っていても、怖くてなかなか訴訟に踏み切ることができず、躊躇うことになり、庶民に泣き寝入りを強いることにもなってしまいます。

 

相手方の弁護士費用を敗訴者に負担させるかどうかについては、国によって扱いが異なっていますが、タイも、日本と同じように、相手方の弁護士費用を敗訴者に負担させない制度を採用しています。