【逮捕劇】裁判の弁護を引き受けたのは、弁護士ではなかった

裁判所、逮捕、手錠、

 

タイの某刑事裁判所での出来事

 

タイで起きた多額の投資詐欺事案で、当事務所の弁護チームは、原告側の弁護のために某刑事裁判所へ訪れた。

 

そして、裁判は始まったばかりであった。

 

 

相手の被告人男性も高齢の日本人男性を連れて法廷へやってきた。その高齢男性は、弁護士ではない事が一目で分かった。タイでは外国人が弁護士になることはできないだけでなく、タイでは、弁護士なら法廷では黒の法服を着用するからだ。

 

そして、間もなく裁判官による刑事裁判は始まった。

 

当事務所の弁護士(原告側)が、被告人への尋問を行っている際、被告人の妻と思われる人物と、もう一人日本語を話すタイ人女性が一緒に出廷していて傍聴席に座っていたのだが、その女性ら2人は、裁判中だと言うのに、大きな声で話しながらゲラゲラと笑い声を上げているのが気になった。

 

※解説

刑事裁判は「証人尋問」を中心にして進められる。証拠調べの最後にあるのは、被告人本人に対して行う「被告人質問」だ。「人定質問」や「罪状認否」では、裁判官の問いかけに被告人が答える機会がある。そんな被告人に対して、事件に関する質問を直接し、被告人自身も法廷で発言できるのが「被告人質問」だといえる。

 

その時、高齢男性が出てきて、被告人の弁護人の様なことを始めた。(実際、被告を弁護する若い女性の人弁護士が来てはいたのだが…。)

 

周囲に、この高齢男性が誰なのかを確認すると、弁護を任されているコンサルタント会社の人物だということだった。先程の傍聴席に座っていた日本語を話すタイ人女性も立ち上がり、何やら日本語で喋りだした。(このタイ人女性、法廷通訳者という感じは受けない。被告の身内の者のように見えるが…。)

 

そして、高齢者のその男性は、このタイ人の通訳者を通し、被告人に「ああ言え」 「こう言え」 「こう答えろ」と采配を振っている。また、裁判官に注意されているにも関わらず、この高齢者自身がしゃしゃり出てきて話し出す。

 

被告人が主張している所に割って入り、裁判官の質問に対し的外れな回答をしたり、裁判官が話し終わっていないのに割って喋ったりしている。曖昧で根拠の薄いと思えるような回答を、繰り返し被告人に証言させている。

 

被告人は、この高齢者に言われるがまま、犯した犯罪事実を認めながらも、今度は否認したりで、その高齢者の指導は、支離滅裂で一貫性がなく法的裏付けなどまったく考慮されていない「その場しのぎの子供の言い訳」みたいなものだった。

 

そうやって、被告人は、高齢者の日本人に言われるがまま、裁判官の質問に答えていった。裁判官らも、この高齢者を「法的業務に従事した人間」と思っていない為、ろくに相手にしている様子が無い。

 

※解説

もっとも被告人質問も、他の証人と同様に自由に話せるわけではなく、通常は、あくまで弁護人や検察官、あるいは裁判官の質問に対して答えるという形式で行われる。

 

終いに、この高齢男性は、思うようにいかないことからイライラした様子で、「通訳!ちゃんとやれ!」と自分が連れて来た通訳に怒鳴ったかと思ったら、今度は、被告人に対して「あんたね!ダメだよ!!!私の言うと通りに証言しなさいよ!」と大声で責め立てている。

(被告の弁護士はと言うと、肩身が狭そうに、そのやり取りを見守っているだけだ。)

 

挙句の果てに、高齢者男性は、裁判官を見上げて「この事件は、刑事事件じゃねーんだ!民事だ!民事!」「微罪なのに対して、刑事事件って何なんだ、この国は!」と怒鳴ったりしている。

 

何しろ、めちゃくちゃだ。

 

※この時、当事務所の弁護チームの全員が、今回、この被告人は、当事務所が事件を引き受けた依頼者ではないものの、この時ほど、戦うべき対象者を気の毒に思ったことはなかった。と言う。また、弁護士の能力とは関係ないところであるが、この高齢者の法廷での言動により、勝利の女神(運)が、私たちに微笑んでいる様に感じていた。

 

※解説

補足だが、証人は質問を受ける前に「嘘偽りなく、真実を申し述べることを誓います」という「宣誓」をしていることから証人は原則として黙秘権は認められない。質問に対して何らかの答えをしなければならないわけなのだが、言いたくない内容は、「覚えがありません」「わかりません」、「記憶にありません」と答るという、実的な法廷テクニックはあるのだが、嘘をつくと最悪の場合「偽証罪」となり、後日、刑事処分を受けることになる。

 

それから間もなくして、裁判官の判断により法廷へ刑務官が呼ばれた。刑務官らは法廷内へ入って来ると、被告人に手錠をかけた。こちらが拍子が抜けてしまうほど、あっけない逮捕劇となった。最初にも記したが、裁判は始まったばかりである。

 

※解説

本来、弁護士の法廷内での証人尋問や被告人質問が腕の見せ所で、被告人の有罪や量刑が決まってしまうといっても過言ではない。いき当たりばったりの尋問や戦略のない尋問では必ず負けるのが裁判だ。有効な尋問が出来るかは、経験,訓練,センスで決まる。それは、原告側の弁護士に限らず、被告人の弁護側でも同じことが言えるわけで、弁護士は、被告人の権利を守り、量刑を最小限に抑える為に弁護する義務があるのだ。

 

しかし、この高齢者男性の法廷での振る舞いは、被告人の弁護の役割を果たしているとはとても言えるものではなかった。その結果、被告人は即時に逮捕に至った。法廷で一般人が弁護人として役目を果たそうなど無謀すぎるだけでなく、このような結果を簡単に招いてしまうとは、無責任にも甚だしいと言えよう。この高齢者を連れて来ずに、被告人が一人で出廷した方が、まだ、被告人にとって最悪の結果は免れていたであろう。

 

例えば、裁判所からの出廷要請があるにも関わらず、被告人が出廷してこない場合、裁判官らの被告に対する心証がものすごく悪くなるため、どんな被告人の弁護士でも出廷を促すものだが、更に今回の逮捕劇について言うと、この高齢日本人に弁護を委任するくらいなら、被告人は出廷してこない方が、まだ、この結果を避けられたであろう。

 

終わり

 

 

 

何故このようなことが起こるのか?

 

このように、弁護士を選ぶ際には、当然、その事件に強い弁護士かを見る必要があるが、上記の様な例もあるので、様々な観点から慎重に選ぶべきだ。

 

「弁護士でない人が支援をするコンサルタント会社」があるるようだが、案件内容によっては、上記の事例のように、大変な結末になることも考えられるだろう。それなので、法的措置や弁護士を依頼したいと思った際は、受任内容や受任する人物(弁護士)が誰なのか、自分自身が求める委任内容になっているかをしっかり確認してから、その契約書を交わして依頼をするべきだ。

 

当事務所へ法律相談に訪れる相談者の中にも、セカンドオピニオンで相談に訪れる方も数多くいるが、ある相談者は、自身の事件を解決したく、既に「あるコンサルタント会社に大金を支払ってしまった」と、その領収書を見せてくれたことがあった。そのコンサルタント会社では、この相談者へ「これは詐欺被害だから、警察へ訴えを出そう」と弁護士契約を進められて、その弁護士代金を支払ったと言う。

 

しかし、1週間ほどして、この相談者は、このコンサルタント会社から、「やることはやったが、警察が動いてくれない」「警察に受付けて貰えなかったから、解決は難しい、諦めた方がいい」などと言い、警察での作成書類や証拠を何一つ提示せずに、「この事件の受任業務は終了だ」と告知をしてきたと言う。

 

相談者へ更に訊ねていくと、このコンサルタント会社とは弁護士委任契約(契約書)も結んでなく、更に、依頼した弁護士と一度も会っていないと言う。そして、警察へ訴えを出すはずの、この相談者ご本人は、一度も警察署へ足を運んだことがないと言う。(通常、警察に訴えを出す場合、被害者本人が出向く必要がある)

 

しかし、こういった事が横行すると、本当に事件や問題で困った人たちが、どこに相談に行けば、まともな支援受けられるのかと疑心暗鬼になるだけでなく、真面目に士業を行っている弁護士らに対しても非常に迷惑な話である。

 

それは、それとして、まずは、皆、自分自身が事件を起こしたり、巻き込まれないことが一番だが、万が一、事件が起きてしまい、法的措置や弁護士が必要になった際は、「自分に合った」「事案内容に合った」「その案件に強い」弁護士を探すことが何よりも大切になるだろう。